徳谷柿次郎のクラフトインターネット日記

演劇「鴨川ホルモーワンスモア」の衝撃

昨年、人生初の観劇をしてきた。なんてしっくりこない動詞なんだろう。観劇をしてきた。使い方合ってるのか?

演劇に疎い私でも頻繁に噂を耳にしていたヨーロッパ企画。わざわざ高知公演の抽選に応募して、見事当選した。数年ぶりの高知だ!と取材も絡めつつ、ほぼ遊びの気持ちで乗り込んだ。

ほかの演劇経験がないため、比較しようがないのだが、目の前に生の人間がエネルギーを発している様が衝撃だった。しかも、舞台上には10人以上が所狭しと動き回り、登場人物それぞれの物語を展開していく。目まぐるしくもあるが、一瞬でも集中力を失ったら振り落とされるような姿勢にもなった。

「絶対におもしろいから、ついてこい!」

そんな自信が舞台上から滲み出ていた。生身すげー。ストーリーも演出も舞台装置も、ぜんぶがすごい。テクノロジーが一切使われていなかった。手元にあったスマホがオーパーツなんじゃないか?と思うぐらいに2時間の物語に五感を奪われていたように思う。スマホ脳からの脱却に、演劇脳が信じられないぐらい有効なんじゃないだろうか。

高知での衝撃を日本酒で流し込んだ後、そのエネルギーを利用してヨーロッパ企画の上田誠さんにジモコロ取材をさせてもらった。高知公演を一緒に観た先輩編集者・藤本智士さんが、上田さんと長い付き合いだったので「一緒にやりましょう!」と誘った経緯がある。

演劇の脚本を考えるトッププレイヤーの言語化は、これまで触れてこなかった未知の領域だったといえる。人を惹きつけること、集中させること、舞台上の使い方をまったく理解していなかった自分にとって目から鱗すぎた。京都まで駆けつけた甲斐しかないし、京都の歴史と文化に底しれぬ畏怖も同時に抱いた。容易に入り込める世界ではない。京都で生まれ育った人だけが踏み入れられる何かがある気がしてならない。それでも通うぞ、京都。

取材の衝撃はじんわりと心を揺らし続けていた。ここで40代の新たな趣味、文化に触れる習慣として全国のヨーロッパ企画公演を観劇する決意をカチカチに固めたのである。

そして2024年4月。ニッポン放送×ヨーロッパ企画の新作『鴨川ホルモーワンスモア』のチケットを入手し、福島取材の前日に東京滞在をねじこんだ。場所は池袋。4月頭から長野生活は多忙を極めて、心身共に疲弊していた。冬の間、低温平熱の生活を続けていたため、人間の欲求を受け止める役回りでクラフトインターネットを書く暇もない。

心の檻は文章を書くことで澄む。いまこの日記を書いている時点で、変化が起きている。

ヨーロッパ企画の通常公演とは違った趣の『鴨川ホルモーワンスモア』は、「一人称で書かれた小説『鴨川ホルモー』『ホルモー六景』を、18人のキャストによる“群像謎競技巨大コメディ”として立ち上げます。僕らは“巨メディ”と呼んでおります(笑)」(ナタリーより引用)と紹介されているが、一寸の狂いもない群像謎競技巨大コメディだった。

圧倒された。おもしろすぎた。舞台演出の構造が縦と横と斜めと奥にまで及んでいて、上田さんのインタビューで話していた「舞台と観客の傾斜をどう作るか」の視点がズバーーーンと突き刺さった。これも取材の醍醐味であり、ヨーロッパ企画のファンからしたら「なんて良い前フリ!」と思われるかもしれない。

傾斜があまりにも傾斜すぎた。京都・鴨川を舞台にした青春群像劇の世界観はとてもわかりやすく、エンターテイメントの装置として憧れを抱かせるものだった。

大阪の文化欠乏ストリートで育った身としては、リアルタイムで京都に憧れる機会すらなかったが、大人になって編集者を名乗ってからの”京都で学生生活を送った者”への想いは肥大化するばかり。これもまた物語の影響力なんだろう。

そういえば上田さんの取材の前に、だんごさんと森見登美彦さんにも取材したんだった。20年の時空を超えて、いま、おれに京都の文化が頬を撫でてくる。都市生活者に戻りたくなってしまう。東京もすごいけれど、必ず公演のある京阪神エリアこそバランスが良いんじゃないだろうか? 藤本さんが20代から触れている創作の源泉がここにある気がしてしまう。

ここで突拍子もないことを書きたい。前述の通り、自然の中で暮らしながらも疲弊していた。身体はバキバキ。前日に借金イベントで「67億円の借金者が集まりました!」と喚き散らしていたのだから無理もない。

だが、『鴨川ホルモーワンスモア』を観終えた後、身体が軽くなっていた。圧倒的な演劇のパワー、18人のキャストが2時間放ち続けるエネルギーは、心と身体を震わせたことは間違いない。

あえて言い切ろう。最高の演劇体験はマッサージ効果があるのだ。

森見、鴨川、マリオにくるり。ヨーロッパ企画の京都界隈を巻き込む快進“劇”!

森見登美彦は“妄想の京都”で創作をする。鴨川デルタで回想する茶色の青春

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