徳谷柿次郎のクラフトインターネット日記

生のクラフトビールを感情ごと持ち帰る

1月6日から訪れていた2年ぶりの道東ツアー。つるつるの氷の上を拓郎くんの新車で走り抜ける。空が広い。海が近い。長野の起伏ある景色とは当然違っていて、荘厳な自然が人間に与える影響は計り知れないなと思う。

中標津のワイルドミルク取材を終えた我々は、弟子屈の「つじや食堂」へ。ここ5年間で4度も訪れている滋味深いスープーカレーの名店でもある。ほかにも古着、レコード、雑貨など、ひとりの人間が持ち得る引き出しの総量をはるかに超えている品揃え。死ぬまでにあと10回ぐらいは立ち寄る気がしてならない。

夜は帯広で宿泊予定だったのだが、拓郎くんの提案で鶴居村に新しくできたクラフトビール醸造所『Brasserie Knot(ブラッスリーノット)』に立ち寄った。初日も二日目も夜の飲み会でここのビールを飲んでいて、聞けば拓郎くん率いるドット道東がディレクションに携わっているそうだ。なんていい仕事!そんな仕事やりてえ!

Knot代表でもあり、業界的の実力者でもある植竹大海さんとも話すことができた。なんていいタイミング。あえてこの試される大地に移り住んで、地元の人たちに愛されるビールをつくる。動機と実行動が伴っていて、なおかつ優しくて愛のある姿勢に心打たれた。人格者がつくるおいしいビール。これは買って帰るしかないじゃないか。しかも人生初のグロウラーで。

グロウラーとは、炭酸飲料やビールなどを入れて保存できる水筒みたいなもの。炭酸が抜けるのを防いで、温度管理にも向いている。要は「ビールの量り売り用の水筒」。

前々から気になっていたものの、旅先で荷物になるからなぁ…と手を出していなかったのだが、植竹さんのつくる道東限定の生ビール「DOTO」は、このタイミングでしか持ち帰ることができない。レア度は超高い。

毎日店に立ち寄るたびに増えるお土産。お菓子、雑貨、チーズ、本など、段ボールでまとめて送りたくなるぐらいの物量に仕上がっていたが、車の後部座席はそんな躊躇を一度フラットにしてくれる。

「あとで考えたらいいや」。

この精神で950mlサイズのグロウラーに生ビールを詰め込んで、帯広空港→羽田空港→長野駅→信濃町までの帰路約7時間をアナログ輸送で持ち帰ったのだ。

時計は深夜1時。体調不良を抱えた道東の長旅……。疲れを引きずったまま荷物をバラして、そのまま布団で寝てしまおうかとも考えた。だが、派手なイエローのグロウラーが語りかけてくる。

「おれの保冷時間は36時間だ。ボトルに詰めてから32時間は経ってるんじゃないか?」

せっかくだから、一杯だけ飲もう。小さなガラスのコップにKnotの道東限定生ビール「DOTO:を注いで、乾いた喉に流し込んだ。

うまいなんてもんじゃない。やばいぐらいの感動が押し寄せてきた。なんなんだろう。人生で一度も経験したことのないタイプの喜びが、足元から脳天まで湧き上がってきた。

ビールが当然おいしいのもあるし、キンキンに冷えていたのもあるが、半日前まで滞在していた土地の記憶と体験が7時間の道のりを超えて、再び自分の身体に戻ってきた衝撃がすごかったのだろう。

生ビールを持ち帰るだけで良い体験であることは間違いない。だが、時間をかけて持ち帰るほどに本人はよりおいしくなると思う。駅から遠いラーメン屋の食べログレビューは点数が上がる傾向にあると思っているが、苦労や不便をスパイスとした味覚の反応は侮れない。

クラフトの生ビールを持ち帰る酒屋(+クラフトの本屋)をやりたいな〜と考えていたこともあって、この体験ができたことに確かな手応えを感じることができた。今後、旅先にクラフトビールの醸造所があればグロウラーを必ず持っていきたいと思う。片道3時間でも、片道12時間でも、旅先から戻ってきた夜に「ただいま」の感情とともに飲み干していきたい。

https://brasserieknot.jp/

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