徳谷柿次郎のクラフトインターネット日記

文学フリマ東京に初出店

11月23日、噂の文学フリマ東京に初出店した。過去にジモコロで取材させていただいた経緯もあるが、風旅出版の代表として一番人が集まるイベントを経験しなければならないと思ったからだ。

残念ながら新作2冊は間に合わなかったものの、4月発売『A GUIDE TO SHINANO-MACHI』と7月発売『都市と路上の再編集』はどちらも新作といっていい本だ。なぜ年に4冊も作っているのか。そこはもう考えたら終わり。新しいも古いもない。抱えた在庫は死ぬ気で売り続けるだけである。

今回はHuuuuの社内チーム4人で参戦。準備諸々はだんごさんが詳しいので任せつつ、若手二人も長野から連れていって売り場での経験と文学フリマの世界を身体で感じてもらう意図があった。普段の小さな出版イベントとどう考えても勝手が違う。なぜなら公式情報の来場者は18,971人 (出店者: 5,463人・一般来場者: 13,508人)。出店者があまりにも多い。一般来場者との割合おかしくないか。

会場は東京ビッグサイト。電車の乗り換えでたどり着ける自信がなかったので、東京駅から新橋駅に移動して、駅構内のカフェで本の制作を小一時間進めた。追加の原稿も新幹線であらかた書き終えて、迫りくる締切と小さな闘いをこなす。新橋駅から東京ビッグサイトまではタクシーで約2000円ぐらい。追加で持ってきた本と看板などを引きずって、出店ブースまで向かうが広すぎて迷った。

そもそも2会場にまたがって開催されているのを知らず、出店情報の「つ-91」を目指して探しまわるものの、ずっと「A-34」みたいなアルファベットの区分けの世界が続く。一体どうなってるんだ。ひらがな指定されているのに、アルファベットの世界に異世界転生しているのか?と呆けていたら、全く同じ広さの空間が2階にあった。

出店体験はあっという間だった。12時から17時までのたったの5時間しかない。人が濁流のように流れて動き、思い思いの本を手にとって買われていく。幸いブースの場所が比較的良かったので、我々のことを全く知らない人たちが、表紙に惹かれて買ってくれる回数がとても多かった。

一番人気は『都市と路上の再編集』で、まちづくり文脈のキーワードとハンバーガーのイラストが気になったらしい。まだまだ東京の販路を開拓したほうがいいのかもしれないなと思った。

合間に知り合いや興味のあったブースをいくつかまわる。クラシコム青木さん、ツドイの今井さん、バトンズの古賀さん、田中さん、鈴木あこさん、古性さん&伊佐さんなどなど、近所の島を3つぐらいまわるだけでもうヘトヘトになる。会場全部を見渡すのは不可能に近い。合計10冊ぐらい購入し、挨拶を交わすだけでも充分に価値がある。

なんとなく会いたくない人(きっと向こうも)も近くにいたので、その気配をメタルギアソリッドのように感じながら、ほどよい距離を取ってスルーしていくのは新鮮だった。東京でも長野でも、気の合わない人間はいくらでも出てくる。普段は接触せずに生きていけるが、文学フリマぐらいの規模感と業界の近さが重なるとエンカウント率も上がるものだなと、苦虫を噛まずにペッと吐き捨てておいた。

概算ではあるが全体で40冊ぐらい売れたと思う。事前に複数の本を売るよりも「一冊特化(新作!)」が強いと聞いていたが、まさにそのとおりだなと。知名度の高い作家性で勝負をするのか。出版社としてのラインナップで勝負をするのか。

人気のブースでは100冊、200冊売れていたそうだが、そうなると休む暇もなく著者自らサインと会話をフル対応したら5時間が尽きるはず。いかに本を売って食っていくのが難しいのかがわかる。経済合理性は一旦脇に置いといて、目の前の人が直接本を買いたいとお金を払ってくれている。

全国の出版イベント行商で気付いた、人間同士が行う「お金」「時間」「感情」の交換様式の力強さについてはまた整理して書き留めていきたいと思う。この3つが揃うことで生まれる熱は10年裏切らない。

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