年明けから集中的に作業をしていた長野県信濃町のガイドブック『A GUIDE TO SHINANO-MACHI』。ようやく校了を迎えた。長かったともいえるし、あっという間だったともいえる。
編集長として町民として、生半可なものは作れない意識でこれまで10年間向き合ってきたローカル×編集のひとつの集大成になった。
個人的に領域が大きなテーマで、ジモコロは47都道府県、SuuHaaは長野県、そしてHuuuu本社の活動としてシンカイ、MADO、夜風というリアルな場の編集から長野市都市ブランディングの仕事を経て、今回は人口約7500人の最小単位の「自分が暮らす小さな町」まで辿り着けた。
この変遷はとてもダイナミックで、軸足を意識的にズラしながら、実績と関係性を織り重ねてきた結果のひとつだと思っている。領域のサイズによって編集の視点は変わるし、取り組む時間もコストも変動幅が生まれる。難易度の高さは改めて全国47都道府県を取材することになるのだが、見方を変えればひとつの点にも置き換えられるだろう。点を積み上げてきたジモコロの軽やかさ。そこに重みを加える編集の妙はとてもおもしろい。
一方、今回のように自分が暮らす町になると肌感覚がピリつく機会が多かった。そもそも美意識に富んだプレイヤーが数多く集まっている土地で、彼ら彼女たちとの距離感をどうはかるのかが求められた。いや、正確には考えすぎてしまう時間が多かったともいえる。なぜなら本の制作を通して生まれた関係性、対話の中で広がった意識は暮らしと共に続くからである。
対人関係の間合いに対しての意識も年をとればとるほどに、鈍感にもなるし敏感にもなりえる。30代はがむしゃらに走っているからこそ振り返ることもなく進むことができた。40代は振り返りながらも適切だったかどうかを鑑みることが多い。同時に億劫な感情が足元をもたつかせることも増えた。それでもやるといったらやるしかない。一本の糸を生活の時間の中から手繰り寄せて、その先の反応を繊細に想像しながら、一人ひとりに向き合うような時間だった。
過去の反省からも、いつなにがあってもすぐに身体を運べることの強みは理解していた。それでも驕らず謙虚に、適切な言葉を選んで口にしながら、時には文面や資料、制作過程で生まれる表現の力みたいなものを取り出しながら交渉を続けた。間に人を挟みすぎず、剥き身の徳谷柿次郎として初心に帰ったような気持ちで取り組めたことのピュアさは今後も忘れることがないだろう。
印刷は藤原印刷、写真は鶴と亀の小林くん、アートディレクションは杉本陽次郎さん、そして本の顔となる表紙イラストは丹野杏香さんにお願いした。文章は根岸達朗さんと風音ちゃん。このチームディレクションに到達できたことが、編集の7割を決めることになったと断言できる。
若手メンバーとして進行の大役をやりきってくれた新卒・ふろめぐみ、出会ったばかりの隅田ききょうちゃんの存在と視点も本書を彩る良い仕事をしてくれた。フィニッシュは校生校閲の鷗来堂、いつもお世話になっている代表の柳下恭平さんの存在がクオリティをグッと押し上げてくれた。改めて感謝をここに記しておきたい。
ようやく一息つける。そして春を迎えて本が完成する。ここから各所への納品、挨拶、営業を身体で応えながら、出版イベントから販売戦略まで「本気で泥臭く売り続けるターン」に移行する。きっとまた呼吸が浅くなるだろう。やってこ!と叫びたくなるだろう。それでも30代後半の無茶な動きではない、40代前半としての逡巡を小脇に抱えながら、大胆かつ繊細に動いていきたいと思う。
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